ハンドメイドのスーツ仕立て

パターンオーダーイージーオーダーフルオーダーなど、オーダーメイドスーツには様々な種類があります。その中でも最も手間がかかるのは、言うまでもなくフルオーダーになります。当社の縫製工場では、全国のテーラー様や百貨店様のご注文を受けて、フルオーダーでのお仕立てを行っております。

一般消費者の方はもちろんのこと、テーラー様でも縫製工場の現場に頻繁に足を運ぶことは難しいことと思います。ですから、ここでは縫製の各工程について、動画を用いて詳しくご説明します。

1.仮縫い①

仮縫い(※ピン留め等ではなく縫う方)については、各社のパターンをご提示くださいましたら、繁忙期を除き原則として1週間でご用意いたします。

なお、次の箇所については、仮縫い後の調整が可能です。

(※場所により差はありますが、最大で35ミリ程度調整できます)。

  • 前幅
  • 着丈
  • 袖丈
  • 脇だし
  • 肩幅出し
  • ゴージ位置の変更
  • 襟幅変更
  • フロントカットの形状変更
  • 肩パッドの調整
  • ベント形状変更 他

仮縫い

2.仮縫い②

ピン留め等による仮縫いは、販売店においてフィッターが行うものです。フィッターは、お客様の好みを聞きながら、お客様の体が隅々まで仮縫い状態のスーツにピッタリフィットしているかどうかをチェックします。そして、ピンを留めたり、しつけをほどいてピンで留めなおしたりしながら、仮縫い状態のスーツに最終的な補正を行います。

良いスーツに仕上げるためには、販売店側のフィッターと工場側の担当者が、お互いの技術を理解し合うことが大切です。しかし、一般の縫製工場では、頑固な職人がいて融通が利かないことがしばしばあります。当社の縫製工場では、技術者の中に百貨店のフィッター経験者が何名かおり、フィッターからの要望にも柔軟に対応しています。

なお、仮縫い状態のスーツはピン留めするのでも、しつけをほどいてからピン打ちするのでもかまいません。ただし、必ず補正書を添付していただきますようお願いします。

3.補正

基本の型紙に従った仮縫いに対してフィッターが補正を行ったら、縫製工場の現場へ補正情報を伝え、補正の指示を行います。縫製工場では、基本の型紙にフィッターからの補正指示を追加し、最終的にお客様独自の型紙を作成します(※ご要望があれば型紙を実際にご覧いただけます)。

補正がうまくできないと、見た目がおかしくなるだけでなく、特に肩まわりなどの着心地が悪くなってしまいます。仮縫いの補正指示とそれを型紙に反映させる作業は、非常に重要ですから、接客をするフィッターと型紙を作る職人との息を合わせる必要があります。

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補正

4.裁ち合わせ

裁ち合わせとは、仕上がった型紙を生地に当てて裁断する作業になります。1でフィッターから伝えられた補正情報にもとづき、平面的な生地を立体的な身体に合わせていきます。裁ち合わせはスーツの設計図を作る重要な作業になりますから、失敗のないように行わなければなりません。

裁ち合わせを担当しているのは、百貨店でフィッターを担当していた市毛氏です。フィッター経験者が裁ち合わせをすることで、お客様サイドである販売者に近い感覚の裁断が可能になります。

生地を裁断する鋏には、刃渡り30センチの年季の入った30年物の伝統工芸品を使用しています。一度でも床に落とすと刃がこぼれてしまいますから、取り扱いも慎重に行います。鋏は良く研がれ、上質の生地との相性も良く、裁断するときにはジューッという音をたてながら滑らかに刃が進んでいきます。

なお、普通イージーオーダーでは1着のスーツを作るのに3.0~3.2mほどの生地を使用しますが、フルオーダーでは2.8~3.0mで1着分とします。生地を無駄なく使うことも、裁ち合わせの技術の1つです。

5.見返し作り

見返しとは、スーツ前面の裏側部分になります。見返し部分は、スーツ表側の身頃部分や間に入る芯地と同様、着心地を左右する重要な要素となります。さらに、見返しはスーツ裏側への入口となり、装飾としての役割も果たしますから、見た目にも影響を与えます。

6.ダーツ処理・芯据え・ポケットづくり

人間の身体というのは、円柱形を基本とし、胸板やヒップの厚みがあり、その間のウエストはくびれています。スーツの立体感は、このウエストのくびれをどう表現するかで変わってきます。そして、くびれをうまく形成するために、ダーツ処理が重要になります。

たとえば、ウエストのくびれを出すために、脇からだけ詰めると、平べったいスーツになってしまいます。一方、背中だけでウエストを絞れば、後ろ身頃が突っ張ってしまいます。美しいシルエットを作るためには、胴回り全体を少しずつ絞っていきながらバランスを整えていかなければなりません。

ダーツ処理が終わると、次に、芯据え(身頃に対して芯地を張っていく作業)を行います。フルオーダーでは、やわらかいクタッとした仕上がりを好まれるお客様から特別なご要望がない限り、芯地としては毛芯を使います。毛芯を使うことで、着用したときに胸の厚みが際立ち、カチッとした重厚感のある仕上がりになります。当社では、本バス毛芯をベースにし、素材や場所に応じて、数種類の毛芯を使い分けています。

また、この過程では、ポケットも作ります。ポケット作りは、機械ではバチーンと一瞬でできてしまいますが、ここでは手作業で行います。手作業ですから、玉縁部分(ポケットの縁取り)なども丁寧に仕上げます。

7.肩入れ

工場長は「スーツは肩で着る」と言っていますが、オーダースーツでは、肩入れが最も重要なポイントとなります。画像を見ていただくとわかるように、仮縫い段階では、肩の縫い合わせは背中側の方がたるんでいます。肩入れ作業では、背中側の生地を身体の前方具合に合わせ、アイロンワークで前に縮めながら肩を作っていきます(片方の肩だけで背中側を1.0~1.5cm縮めます)。仕上がりの画像を見れば、背中側の生地も綺麗にシワが伸びているのがおわかりいただけると思います。フルオーダーでは、このように生地を縮めることで、肩線を作るのが特徴となっています。

イージーオーダーでも肩入れは行いますが、生地をじっくり伸ばす時間的・技術的ゆとりがありません。そのため、イージーオーダーでは、この部分を裏側から接着芯でピッタリ糊付けします。糊付けにより見た目は確かにくっつきますが、本来の肩のラインに沿った縫い線にはならず、この辺りがイージーオーダーの限界と言えます。

8.襟作り

首まわりでは、特に襟を付ける作業が重要です。スーツを綺麗に仕上げるためには、襟に適度な堅さを持たせなければなりませんから、襟芯を使って堅さを調整します。当社では固く膠(ニカワ)付けした襟芯を湯通しして柔らかくしたものを使っており、湯通しする時間を調整することで、襟芯の堅さを変えています。仮縫い時には上襟は膠付けした芯を堅いまま使っていますので、触ってみると違いがおわかりいただけると思います。

体型補正の情報と照らし合わせながら、肩から首にかけてのカーブに沿った襟作りをします。これが綺麗にできなければ、襟が抜けてしまったり、着用したときに疲れてしまったりすることになります。

なお、体型に合わせる作業を行う際には、「殺し」と呼ばれる「いせこみ」の技術が欠かせません。いせこみは、扇型の上襟を作るために、首に接する部分の生地をアイロンワークで縮めていくことです。上襟を仕上げる際には、背中側の生地との柄合わせも必要ですから、どこまでも高度な技術が要求されます。こうしたことから、当社の縫製工場では、上襟を作る作業だけで、1時間以上の時間をかけています。

9.袖付け・穴かがり

フルオーダースーツを作ったことがある人なら一目で違いがわかるのが、手でかがられたボタンホールでしょう。手付けのボタンホールは、見た目はしっかりしているのに柔らかく、付け根部分に閂(カンヌキ)ができています。

機械では数秒で開けることができるボタンホールですが、手作業の場合には、熟練した職人でも1箇所につき約15分程度かかります。そのため、職人のこだわりも半端ではなく、テーラー組合には今でも美しいボタンホールを競い合う「穴かがり研究会」があります。

10.プレス

プレスは最後の仕上げになりますから、重要なことは言うまでもありません。各部位ごとに7~8種類のプレス機に当てるのが基本ですが、素材が違えばプレスの強さも変えなくてはならず、最終的には手で丁寧にプレスして仕上げます。

プレス機で約1時間、ハンドプレスで30分プレスし、ようやくスーツが納品できる状態になります。お客様の喜ぶ姿を見たいがために、ここまでの手間をかけて、皺一つないスーツに仕上げています。

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